「鎌倉散歩」 (その28)   得田 皓則 

田谷の洞窟

 大船観音から近い田谷の洞窟という所に行ってみましょう。観音の下にバス停があり、洞窟・ラドン温泉という停留場を通るバスだと5〜6分で行かれます。
 通称、田谷の洞窟といいますが、詳しくは田谷山瑜伽(ゆが)洞と称し、元は鶴ヶ岡二十五坊(明治になって神仏分離がなされるまでは、鶴岡八幡宮も神仏混合で塔頭が25あったといわれ、鶴ヶ岡八幡宮寺と言われていた)の修禅道場であった。現在は真言宗定泉寺という。

定泉寺の入口

 門を入り、本堂の右側の山裾にその洞窟はある。受付で入場料を払うと小さなローソクをくれます。それを持って、直ぐ右に行くと洞窟の入口が見えてきます。洞窟の入口で、ローソク立てにローソクを立て、火を付けて、洞窟にはいる事になります。この洞窟は鎌倉時代初期に開創されたと伝えられ、江戸時代に至るまで適時拡張されて上下3段、延長1キロメートル余の壮大な規模となったそうです。地質は粘板岩の巨大な一枚岩で幾度かの大地震にも見事に耐えています。ローソクを持って洞窟に入りますと、行者道と矢印があり、その矢印に従って歩いていきます。洞窟は広い所、狭い所といろいろありますが、所々に少し広い部屋のようにした所もあり、その部屋のような所や、通路などに本尊一願弘法大師をはじめ四国、西国、秩父、坂東各札所、両界曼荼羅諸尊、十八羅漢等数百体の御仏が、祀られたり、或いは壁に掘られて今も無言の説法を続けています。ローソクの明かりを頼りに一人で歩いていると、どこを歩いているのか分からなくなり、ひょっとしてこのまま永遠に歩き続けるのではという妄想に駆られます。
また、合理性を備えた洞窟の構造からは往時の土木技術の一端がうかがわれ、その点からも貴重な存在であります。寂静の洞内に今もなお残る無数のノミ跡は往時の修行の様子を物語っているようです。

たずね入る 心深くば みほとけに

  あいなむ ここは 観法の洞

洞窟の入口

(了)