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▽網走の思い出 
 
    松宮 一葉

  ある日

 水平線に白いラインをひき

 ゆっくり布を広げるように

 岸へ近づいてくる流氷

 そして 

 一夜にして灰色の海が ささくれた氷原帯になる

 これが

 わたくしの故郷の2月

 都会の生活につかれている方

 今にも落ちてきそうな星空や

 心まで凍りつきそうな夜に 

 けものの悲しい叫びにも似た 流氷のきしむ音を

 聴きに言ってはいかがですか

 大切なものが 見えてくるかも

  

 子供の頃

 一日山で遊ぶことが多かった

 わたしだけの秘密の場所も たくさん持っていたし

 それらの場所には

 それぞれの名前がついていた

 たとえば 

 通り道を すべて枯れ葉で隠した木の上の小屋

 ターザンの家

 野イチゴが たくさんとれる森

 赤ずきんちゃんの森 

 海いっぱいに沈む夕日が 一番きれいに見える場所

 夕日の展望台

 そこでわたしは 数えきれないほどたくさんの

 童話の主人公になっていた気がする

  

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